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徳島新聞女性クラブで 講演する池上彰さん =アスティとくしま |
いつまでも向学心を
日本や世界経済に大きな影響を与えているのがトランプ大統領。今何をしているかというと、2年半先にある大統領選挙の選挙運動をしている。大統領の任期は1期が4年で、連続2期まで。2期目を逃すと大統領失格との烙印(らくいん)を押されるので、負けず嫌いのトランプさんは何としても再選したいと考えている。しかし11月の中間選挙では与党の共和党が不利といわれており、危機感を強めている。
大統領選ではいつも共和党が勝つ州と民主党が勝つ州がある。そこを取るだけではいずれの党も過半数に届かない。選挙のたびに共和党が勝ったり民主党が勝ったりする州が六つあり、スイング・ステート(揺れる州)と呼ばれている。
この6州で支持を集めようというのがトランプさんの戦略だ。ミシガン州、オハイオ州などは鉄鋼や自動車産業が衰退し、ラストベルト(さびついた地帯)といわれる。
そこで輸入鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税をかけた。結果、国内工場が操業を再開し、雇用が生まれた。また、日本車やドイツ車に高い関税をかけるぞと脅したり、地球温暖化を防止するパリ協定から離脱するぞと言い出したりしている。アメリカのニュースは、トランプさんの支持率が全体で30%台と伝えている。しかし、この6州で勝ちさえすればよく、あらゆる手を使っている。
トランプさんがよく言う「アメリカ・ファースト」の背景には、グローバリズムの中で自国の産業が衰退したことへの危機意識がある。それは何もアメリカに限ったことではない。その典型がイギリス。来年3月末にEUから離脱するので混乱が起きている。EUは国境をなくし、人の動きが自由になれば戦争がなくなるとの理想の下に始まった。ところが東ヨーロッパから教育水準が高く、非常に賃金の安い労働者が大量に入り、イギリス国内で反発が強まった。
ブラジルでは「ブラジルのトランプ」と呼ばれる候補者が大統領になりそうだし、フィリピンにも「フィリピンのトランプ」といわれるドゥテルテ大統領がいる。
トルコではエルドアン大統領が絶対的な権力を持とうとしている。政治指導者が自国を優先するのは当たり前だが、「自国をよくするためには他国とも仲良くしなければ」と皆がしっかり考えなければならない。
国際情勢を見る時に役立つのが新聞で、私は13紙購読している。日本で学校の授業に取り入れたところ、国語力が伸びたという調査結果もある。お子さんやお孫さんの学力向上の一つの材料としてお薦めしたい。
AI(人工知能)がどんどん普及し、将来いろんな仕事が奪われるといわれる。でもAIは読解力が弱いそうだ。すぐに答えを出せるが、問いをつくるのは人間だけ。答えを簡単に探すのではなく、何が問題なのか、よい問いをつくる力がこれからは必要になる。
私の父は88歳を過ぎて寝たきりになったが、広辞苑を1ページずつ読み始めるようになった。その向学心には驚いた。人は幾つになっても勉強できる。好奇心や向学心を持っていれば、いつまでも若さを保つことができる。 (廣井和也)